韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は、12月3日午後11時に「非常戒厳」を宣言しました。この事態は民主主義への挑戦と受け止められ、韓国国内だけでなく、世界中で注目を集めています。当然ながら、隣国である日本にも影響を及ぼす可能性があります。このニュースについて、迅速に理解できるよう解説します。
今日のキャッチアップ!
・韓国で起こった戒厳令とは何かを理解できる
・戒厳令が出された原因を推察できる
・これから何が起こるかを予測できる
戒厳令とは
戒厳令とは何か
韓国の憲法では戒厳令について次のように定められています。
「大統領は、戦時・事変又はこれに準ずる国家非常事態において兵力をもって軍事上の必要に応じ、又は公共の安寧秩序を維持する必要がある時には、法律が定めるところにより、戒厳を宣布することができる」
大韓民国憲法第77条第1項
要するに、戒厳令とは、戦争などの緊急事態において、大統領が法律に基づいて発令できる特別な措置です。戒厳令が発令されると、行政や司法の機能が軍の管轄下に置かれ、逮捕手続きが変更されるほか、言論・出版・集会・結社の自由が制限される場合があります。今回の事例では、政治活動や表現の自由、報道の自由など、多くの制限が課される事態となりました。
過去に出された戒厳令
韓国ではこれまでに16回の戒厳令が発令されてきました。しかし、1987年の民主化以降は一度も発令されていません。以下に、韓国で出された主な戒厳令をまとめます。
社会不安への対応
- 麗水・順天事件(1948年)
南部地域の反乱に対処するため戒厳令が発布されました。 - 済州4・3事件(1948年)
済州島での反乱を鎮圧するため、戒厳が宣布されました。
戦時の戒厳
- 朝鮮戦争中(1950-1953)
朝鮮戦争の開戦後、全国で非常戒厳が発動され、戦況に応じて解除や範囲の変更が行われました。
政治的利用
- 韓日国交正常化交渉(1964年)
交渉への反対運動を弾圧する目的で戒厳令が適用されました。 - 光州事件(1980年)
軍事政権が民主化運動を弾圧するため、光州市に戒厳令を発布し、100人から200人の市民が犠牲となりました。韓国軍が韓国市民に銃を向け、多くの市民を殺害するというショッキングな出来事は、44年たった今でも韓国国民の記憶に強く残っているのでしょう。
(参考)現代韓国憲政史における国家緊急権, 宋 石允, 徐勝(訳)
韓国で起こったこと
2024年12月3日から4日までの経緯
2024年12月3日
22:23 ユン大統領が緊急談話を発表。
「私は北朝鮮共産勢力の脅威から自由大韓民国を守護し、韓国国民の自由、幸福を略奪する、破廉恥な従北の反国家勢力を一挙に排除し、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣布する」と述べ、非常戒厳令を発令。
22:40 野党「共に民主党」が戒厳令に対抗し、国会の緊急招集を要請。
23:14 ウ国会議長が非常戒厳発令に伴い、国会に緊急復帰。
2024年12月4日
0:00頃 戒厳軍の特殊部隊が国会本館正門に侵入を試みる。市民や議員との間でもみ合いが発生。
0:20頃 すでに国会内にいた野党議員がテーブルや椅子を使ってバリケードを構築。
1:01 国会本会議が開かれ、出席議員190人全員の賛成で「非常戒厳解除要求決議案」を可決。賛成者には与党議員も含まれる。
1:14 国会本会議場に侵入していた戒厳軍が全員撤退し、敷地外へ移動。
4:20 ユン大統領が非常戒厳令の解除を表明。
4:30 首相室が「午前4時30分に国務会議で戒厳解除案が議決された」と公示し、非常戒厳令が正式に終了。
考えられる原因
ユン大統領は、国会で過半数に満たない少数与党として厳しい政権運営を余儀なくされていました。野党は人事や予算案に繰り返し反対しており、政権運営は難航しています。さらに、インフレの継続や、それに伴う鉄道ストライキによる混乱など、社会情勢も政権に影響を与えています。加えて、キム・ゴニ夫人による政治への関与や収賄疑惑も、政権への批判を強める要因となっています。
これらの状況から状況を打開する起死回生の一手として、非常戒厳令の発令という強権的な手段にうって出たと考えられています。
今後の流れ
今後韓国で起こりそうなこと
国会による非常戒厳令の解除により、大統領による市民の逮捕や言論弾圧といった民主主義を揺るがす最悪の事態は回避されました。そして2024年12月4日、野党は大統領の弾劾議案を正式に提出し、今後の大統領の進退が大きな焦点となっています。弾劾を成立させるには、全国会議員の3分の2以上の賛成が必要ですが、現状では野党議員だけではその数に届きません。ただし、戒厳令解除に賛成した与党議員も存在することから、与党内の動向が今後の鍵を握ると見られています。
日本への影響
現在のところ、日本と韓国を結ぶ空の便に影響はなく、ツアーの中止などの動きも確認されていません。一方で、韓国にある日本大使館は「集会や移動に伴う混乱や衝突など、不測の事態が発生する可能性は否定できない」と注意を呼びかけ、今後の発表に留意するよう求めています。
韓国国内で不安定な状況が続く場合、韓国の外交活動が停滞し、日米韓の連携に支障をきたす可能性があります。その結果、北朝鮮や台湾情勢など、地域の安全保障に影響が及ぶ懸念も指摘されています。
まとめ
韓国では2024年12月3日、ユン大統領が非常戒厳令を発令しましたが、わずか数時間で解除されました。戒厳令の背景には、政権運営の行き詰まりや社会の不安定な状況が影響しているとみられます。今回の措置により民主主義への懸念が高まり、大統領の弾劾問題が新たな焦点となっています。日本への直接的な影響は現在のところ限定的ですが、今後の情勢次第では地域の安全保障に影響が及ぶ可能性もあります。